3億年前、空には翼幅70cmのトンボが飛んでいた。
地上には体長2.5mのヤスデが這い、70cmのサソリが歩いていた。
原因は、空気中の酸素が多すぎたこと。
翼幅70cm。カラスより大きい「トンボ」
メガネウラ。約3億年前の石炭紀に生息した、史上最大の飛翔昆虫だ。
翼幅は65〜75cm。体長は最大47cm。体重は推定100〜150g。現代最大のトンボ(ヘリコプターダムセルフライ)の翼幅が19cmだから、約4倍のサイズだ。
ちなみに厳密には「トンボ」ではない。メガネウラ目(グリフィンフライ)という絶滅した別のグループで、現代のトンボの祖先に近い親戚だ。名前の意味はギリシャ語で「巨大な翅脈」。発見者が最初に驚いたのは、翅の翅脈の巨大さだった。

酸素が30%あった時代
なぜこんな巨大昆虫が存在できたのか。答えは大気中の酸素濃度にある。
現在の酸素濃度は21%。石炭紀は約30〜35%。1.5倍だ。
昆虫は肺を持たず、体中に張り巡らされた「気管」で直接酸素を取り込む。酸素が多ければ気管の効率が上がり、より大きな体でも酸素が隅々まで行き渡る。
逆に言えば、酸素が薄い現代では、あのサイズの昆虫は物理的に呼吸できない。メガネウラは、石炭紀の空気でしか生きられない生物だった。
石炭紀の空の王者
メガネウラは当時の空のapex predator(頂点捕食者)だった。天敵はゼロ。鳥はまだ存在しない。翼を持つ脊椎動物もいない。空は昆虫の独壇場だった。
主食は他の昆虫(ゴキブリ、カゲロウなど)。脚に生えた棘を「空中の罠」として使い、飛行中に獲物を捕捉していた。場合によっては小型の両生類まで襲ったとされる。
翼幅70cmの昆虫が、空に敵なしで飛び回っていた。3億年前の地球は、人間が見たらホラー映画だ。
地上も巨大化していた
酸素が多かったのは空だけの話ではない。石炭紀の地上にも、とんでもない生物がいた。
アースロプレウラ。体長2.5m超の巨大ヤスデ(現生ヤスデの近縁)で、史上最大の陸上節足動物。イギリスの海岸で化石が発見されている。
プルモノスコルピウス。体長70cm超のサソリ。スコットランドの石炭紀の地層から見つかった。
70cmのトンボ、2.5mのヤスデ、70cmのサソリ。石炭紀は「虫が大きすぎる時代」だった。
酸素が減って、巨人は消えた
石炭紀が終わりペルム紀に入ると、酸素濃度は徐々に低下した。巨大昆虫たちはサイズを維持できなくなり、次第に小型化して絶滅していった。
さらに後の時代には翼竜や鳥類が空に進出し、昆虫が空の王者でいられる時代は完全に終わった。
メガネウラが王者だった時間は、地球の歴史の中のほんの一瞬。でもその一瞬に、酸素が多いだけで昆虫がここまで巨大化するという事実を刻んだ。
まとめ:酸素が作った、最大の虫
翼幅70cm、天敵ゼロ、空の頂点捕食者。メガネウラは、地球の大気組成が今と少し違っただけで生まれた「巨大化の実験結果」だ。
今の酸素濃度では生きられない。もし石炭紀の空気が戻ったら、また70cmのトンボが飛ぶかもしれない。——たぶん、誰も望んでいないけど。

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