レアはダチョウのパチモンじゃない——ダーウィンに食べられ、ドイツを侵略中

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「あ、ダチョウだ」

南米でこの鳥を見た人は、だいたいそう言います。
長い脚、長い首、飛べない巨体。見た目はほぼダチョウ。

でも違います。ダチョウとは全然違う鳥です。
似ているのは全部たまたま。進化が偶然同じ答えにたどり着いただけ。

しかもこの鳥、調べると予想外のエピソードが出てくる。
ダーウィンが探し求めていた個体を、うっかりクリスマスディナーで食べてしまった。
ドイツでは6羽が脱走して、500羽以上に増殖して問題になっている。
オスは30個以上の卵を同時に抱える、飛べない鳥界のイクメン王。

今日は「ダチョウのパチモン」扱いされがちな、レアの話です。

似てるのは全部たまたま——収斂進化という奇跡

ダチョウとレアは赤の他人

レアはダチョウ目ではなく、レア目レア科。
分類上、完全に別の鳥です。

最新の分子系統学の研究では、レアはダチョウよりもむしろキーウィやエミューに近縁だとわかっています。
つまり前回紹介したキーウィのほうが、よっぽど親戚。

じゃあなぜこんなに似ているのか。
答えは「収斂進化」。まったく別の系統の生物が、似た環境に適応した結果、同じような姿に進化する現象です。

アフリカのサバンナで巨大化したダチョウと、南米のパンパ(草原)で巨大化したレア。
別々の大陸で、同じ「飛ぶのをやめて走ることに全振りする」という進化の答えにたどり着いた。

パチモンじゃない。進化が出した同じ正解です。

よく見ると違いだらけ

似ているようで、細部はかなり違います。

ダチョウの足指は2本。レアは3本。
ダチョウは体高2.5メートル超え。レアは最大でも1.5メートル。
ダチョウの卵は白。レアの卵は金色がかった黄色。

そしてレアの羽には油腺がない。
普通の鳥は尾の付け根に油腺があって、そこから出る油を羽に塗って防水する。
レアにはそれがないので、羽が異常に柔らかい。
この柔らかさが、実はフェザーダスター(はたき)の素材として重宝されてきた理由です。

レアの全身
草原に佇むレア。ダチョウに似ているが、よく見ると体型も羽の質感も違う

卵30個同時抱卵——飛べない鳥界イクメンの王

メスが次々と卵を産みに来る

レアのオスは、まず巣を作ります。
そこにメスが来て卵を産む。1羽だけじゃない。平均7羽のメスが、次々と同じ巣に卵を産みに来る。

結果、巣には平均26個、多いときは80個もの卵が並ぶことになる。

メスたちは産むだけ産んだら去っていく。
飛べない鳥シリーズおなじみの展開ですが、レアの規模は桁違いです。

2週間かけて産まれた卵が、36時間で一斉孵化する

驚くべきは孵化のタイミング。
卵は約2週間かけてバラバラに産み落とされるのに、孵化はほぼ同時。36時間以内に全部出てくる。

オスは最初に産まれた卵の温度を微妙に調整して、全卵の発育タイミングを揃えていると考えられています。

抱卵期間は約30〜43日。この間、オスはほぼ食べない。
しかもヒナが孵化した後も約6ヶ月間、オスがつきっきりで育てる。

育児中のオスは非常に攻撃的で、近づく人間にも突進してきます。
80個の卵を守るパパの覚悟、半端じゃない。

ダーウィン、探してた鳥を食べてしまう

クリスマスディナー事件(1833年)

1833年、チャールズ・ダーウィンはビーグル号の航海中、南米で「小型のレアがいるらしい」という噂を聞いていました。
現地のガウチョ(カウボーイ)たちが「普通のレアより小さい別の種がいる」と言うのです。

ダーウィンは何ヶ月も探しましたが、見つからない。

そしてクリスマス。船のアーティストが仕留めた鳥をみんなで食べていた。
食事の途中でダーウィンはふと気づく。

「……これ、探してたやつじゃないか?」

慌てて食べ残しの頭、翼、脚、羽を回収。
その残骸が標本となり、後に正式に新種として記載されました。
現在の名前は「ダーウィンレア」。食べられかけた鳥に、食べた人の名前がついている。

ドイツ侵略中——6羽の脱走が500羽の野生群に

2000年、食肉農場から6羽が脱走

2000年8月、ドイツ北部シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州。
食肉用に飼育されていたレア6羽(オス1羽、メス5羽)が農場から脱走しました。

南米の鳥がドイツの冬を越せるわけがない——と誰もが思った。

越せました。

レアはドイツの気候に見事に適応。菜種畑や草地で食料を確保し、繁殖を開始。
2014年には100羽を超え、2018年秋にはなんと566羽にまで爆増。

南米の巨鳥が、ドイツの田園風景を闊歩する。
農家の菜種畑を食い荒らし、踏み荒らし、完全に問題になりました。

現在は管理下に置かれている

2020年からドイツ政府は狩猟許可を出し、卵にパラフィンを塗って孵化を阻止するなどの管理策を実施。
2023年初頭には91羽まで減少し、目標の50羽に向けてコントロール中です。

たった6羽から500羽超えの野生群を作ったレアの繁殖力。
イクメン力の高さは、こういうところでも証明されています。

まとめ——パチモンじゃない。これが南米の正解だ

ダチョウに似ているのは、進化が同じ答えを出しただけ。
30個以上の卵を抱え、6ヶ月間ヒナを育てるイクメンの王。
ダーウィンに食べられ、ドイツを侵略し、羽ははたきになる。

「偽物」と呼ぶには、あまりにも個性が強すぎる。

飛べない鳥シリーズ、まだまだ続きます。

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