ガラパゴスコバネウ|飛ぶことを“退職”した唯一のウ。求愛ギフトはゴミ、育児はワンオペ

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世界に約40種いるウ(鵜)の仲間。川や海で魚を捕り、翼を広げて乾かす姿でおなじみだ。

そのすべてが空を飛ぶ。

1種を除いて。

飛ぶことを”自主退職”した唯一のウ

ガラパゴスコバネウは、世界で唯一飛べないウ。40種もいる仲間の中で、たった1種だけが飛ぶことをやめた。

しかも驚くべきことに、飛べなくなったのはたった約200万年前。進化のタイムスケールでは「つい最近」だ。ダチョウが飛べなくなるまでに数千万年かかったことを考えると、ガラパゴスコバネウの「退職」はかなりのスピード決断である。

なぜそんなに早く飛べなくなったのか?答えは簡単。ガラパゴス諸島には天敵がいなかった。逃げる必要がないなら、飛ぶ必要もない。しかも海の中には餌が山ほどある。空を飛ぶエネルギーを水中に潜る能力に全振りした方が、はるかに効率的だったのだ。

ガラパゴスコバネウの写真
出典: Wikimedia Commons

翼はあるけど、ただの飾り

ガラパゴスコバネウの翼は、飛ぶのに必要なサイズの約3分の1しかない。完全に退化している。

しかし、面白いのはここからだ。この鳥、水から上がると他のウとまったく同じように翼を広げて乾かすポーズをとる。

意味がない。乾かす必要のないサイズの翼を、律儀に広げている。200万年前のDNAに刻まれた「翼は乾かすもの」という記憶が、退化した翼にまだ残っている。退職後も毎朝ネクタイを締めてしまう元サラリーマンのようだ。

ターコイズブルーの美しい瞳

ガラパゴスコバネウの目は、宝石のようなターコイズブルー。鳥とは思えない透明感のある輝きだ。

体長約100cm、黒っぽい羽毛のずんぐりした体に、このターコイズブルーの目。ギャップがすごい。無骨なラグビー選手がカラコンを入れたような感じだろうか。

しかし、この美しい目をしたイケメン(イケ鳥?)の恋愛事情は、なかなかに悲惨だ。

ガラパゴスコバネウの写真
出典: Wikimedia Commons

求愛プレゼントは”ゴミ”

ガラパゴスコバネウのオスは、メスに「贈り物」をして求愛する。ここまでは普通だ。

問題は、その贈り物の中身。

海藻、小枝、ロープの切れ端、ペットボトルのキャップ、流れ着いたゴミ——。

要するにゴミだ。

メスはこの「贈り物」を品定めし、気に入れば受け取って巣材にする。オスは必死にゴミを集め、「こんないいロープの切れ端を見つけたんだ!」とプレゼンする。複数のオスが同じメスにアプローチすることもあり、ゴミのプレゼン合戦が展開される。

人間で例えるなら、100均で買った商品でプロポーズするようなもの。しかも成功率はそこそこ高いのだから、世の中わからない。

メスに逃げられる”強制イクメン”

ガラパゴスコバネウの悲劇は、ここからが本番だ。

ペアになったメスは卵を産み、オスと交代でヒナを育てる。ここまではいい。だがヒナがある程度育つと、メスは突然——

オスにヒナを押し付けて、新しいオスのもとへ去ってしまう。

残されたオスは、1羽でヒナの世話を続ける。餌を取りに行き、ヒナを温め、外敵から守る。その間、元カノは新しい彼氏からゴミのプレゼントをもらってウキウキしている。

メスは1シーズンに最大3回もパートナーを替えることがある。そのたびにオスは子どもを押し付けられる。

ガラパゴスコバネウのオスは、ゴミで求愛し、子育てを押し付けられ、最後は1人で頑張る——鳥界最強のワンオペ育児パパかもしれない。

2017年、飛べない原因遺伝子が判明

2017年、科学誌Scienceに画期的な論文が掲載された。ガラパゴスコバネウが飛べなくなった原因遺伝子「CUX1」が特定されたのだ。

CUX1は骨や軟骨の成長を制御する遺伝子。この遺伝子に変異が生じたことで翼の骨の成長が抑制され、あの「飾りサイズ」の翼になった。

興味深いことに、CUX1の変異は人間にも関係がある。この遺伝子に同様の変異があると、人間でも骨格の成長異常が起きる。ガラパゴスコバネウの研究が、人間の遺伝性疾患の解明にも貢献しているのだ。

たった1つの遺伝子変異が、「飛ぶ」というウの最大のアイデンティティを奪った。進化とは時に、こんなにあっさりと生き物の運命を変える。

飛ばないけど、潜る

飛べない代わりに、ガラパゴスコバネウは水深30mまで潜れる。ガラパゴス諸島の冷たいクロムウェル海流が運ぶ豊富な魚やタコ、ウツボを、退化した翼を使って器用に水中を泳ぎ、捕まえる。

翼を「飛行用」から「水泳用」にリストラしたのだ。人間でいうなら、営業部から開発部への異動だろうか。適材適所。

現在、約1,500〜2,000羽がガラパゴス諸島のイサベラ島とフェルナンディナ島にのみ生息する。生息域は極めて狭く、エルニーニョ現象で海水温が上がると餌が減り、個体数も減少する。

まとめ:空を捨てた勇気ある決断

飛ぶことを捨て、ゴミで求愛し、メスに逃げられてワンオペ育児。ガラパゴスコバネウの鳥生はハードモードだ。

それでも約1,500〜2,000羽が、ガラパゴスの海で今日も元気に潜っている。意味のない翼を律儀に乾かしながら。

空を捨てて海を選んだその決断は、200万年経った今でも間違っていない——たぶん。

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